大山白山神社のふもとの、中川の洞山に一人の老人が住んでいた。
その老人は、山の頂きに小屋を建てて、秋になると、かすみ網で小鳥をとっていた。
鳥屋では、山の頂きに竹の棒を立て、これにかすみ網をかけて、張り巡らす。そして、明け方山越えをする渡り鳥を「おとし」を鳴かせておびきよせる。ふき棚に登って見張りをしていて、頃合いを見て、布切れを振って鷹の羽音に似た音を出して小鳥をおどし、”一網打尽”に小鳥を網の中に追い込んで取る手法である。
よい朝は、100羽、200羽と網にかかった。老人は来る朝も来る朝も面白くてたまらず、どんどん小鳥をとりまくった。
ところが、あまり小鳥が網にかかるので、必要なだけ取っておけばよいのに、取れすぎると始末に困って、山に捨てていた。
ある日、老人は網から小鳥をはずし終わって、一仕事終わると、早朝からの疲れで囲炉裏のはたで、ぐっすり寝込んでしまった。
その夢まくらに、白髪の老人が、白装束を着て現れ「おれはこの山の山の神である。お前はむやみやたらと、小鳥を取って殺してしまう。まことにむごいことや。さっそくやめて山をおりろ、さもないと、お前の首をしめて殺してしまうぞ!」と言うと、スー!と姿が消えてしまった。
老人は息苦しくなって、目を覚ますと体中を汗びっしょりになり、心臓はドキドキとおどっていた。
老人は、「こんな恐ろしい夢をみたことは、はじめてや、恐ろしや!恐ろしや!さっそく山小屋をたたんで、山をおりよう。」と心に決めた。
日が西の空にかたむく前に、網をすべておろしてしまい、網張り場に小鳥の供養にと、にわか細工のなた彫りの仏像を建てて祀り、そうそうに山をおりた。
この話が村の衆に伝わると、「洞山には、山の神が出て恐ろしいぞ!」と口々に言って、山に立ち入る者がなくなったと伝えられている。

「ふるさと白川 第3号」より



書籍ふるさと白川 第3号
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