或る夏の終わりの暑い日のことである。

久田見(くたみ)通いの炭をつけた馬方に連れられて、久田見の店まで、はた織り糸を買いに行く、おばあさんがあった。

赤川(あかがわ)を渡ると道は、上り坂になり、息はだんだんはずんで苦しくなったので、途中にある大曲で一休みすることにした。

ここは見晴らしがよく、赤河村(あこうむら)のはるかな遠景を眺めたり、左手の山手の谷間からこんこんと湧き出る清水を口にしたり、汗を拭き流したりするところになっていた。

遠くの景色を眺めながら、たまっている小便を放出するところでもあった。

重い荷物を背負ってきた馬も一休みして、小便したり馬糞をたれたりした。そのため、得をしたのは、道端にしげった雑草に等しい「前坂峠のかぶら」である。

ところで、今まで大きく丸々と太った一株のかぶらに、この婆さんの小便がかかると、急にだんだん縮んできて、片手の親指と人差し指で作れる程の太さに縮んでしまった。

不思議に思った馬方が、「今度はおれがやってみよう」と云って、シューっと小便をかぶらにかけると、不思議や不思議、見る見る中に又元の大かぶらに戻り、それから又ずんずん太って、左の手と右の手を広げて作った輪でもかかえきれないような、大きなかぶらになったということである。

赤河に大沢すき也という医者がござって、約束の午後になると、わらじがけで、福地に往診に行ったかえり、途中に生き残った「かぶら」をとってきて、家の石垣に植えたところ、今でも毎年痩せた芽を出しているということである。



「ふるさと白川 創刊号」より



書籍ふるさと白川 創刊号
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